経営改善計画

経営改善計画策定の全体像(構成・作成フロー等)

銀行から経営改善計画書の提出を求められました。
どうしたら作成できますか?

まずは、「どのようなものを」「どう作れば良いのか」、把握しましょう。

「どのようなものを」については、中小企業庁WEBサイトにサンプルがあるので、そちらを参考にされると良いでしょう。記載例はありませんが、必要なページ構成や項目を把握できます。また、Excelファイルですので、それを加工してテンプレート(ひな形)としても使うことができます。

このサンプルに盛り込む具体的な内容は、経営改善計画策定支援事業のマニュアル・FAQや、支援専門家向けの「収益力改善支援に関する実務指針」にて示されていますので、それらを参照しながら作りこんでいきましょう。

2つ目の「どう作れば良いか」については、作成の流れ利用できる制度をここでご紹介します。

テンプレートを入手する

経営改善計画の策定は、まずテンプレートの入手からスタートします。
様々なテンプレートがありますが、ここでは中小企業庁のものを取り上げます。

中小企業庁サンプル様式の入手経路

中小企業庁は経営改善計画書のサンプル(テンプレート)を公開しています。
経営改善作成支援事業(通称405事業)で使われるもので、2023年4月以降の様式が現在の最新版です。
以下の手順で進むと、経営改善計画のサンプル様式にたどり着きます。

中小企業庁の経営改善計画サンプル様式までの道
  1. 中小企業庁WEBサイトの「経営改善計画策定支援」へアクセス
  2. ページ最下部の「申請書類等一覧」までスクロール
  3. 「〈通常枠〉申請様式【利用申請・支払申請・伴走支援費用支払申請】」をクリック
  4. zipファイルをダウンロードし、保存、展開
  5. 「2_支払申請」フォルダを開く
  6. 「7【別紙2-1】経営改善計画(サンプル様式).xls」を開く

中小企業庁の経営改善計画サンプルの構成

サンプルは以下の計13ページで構成されています。

  • 表紙
  • 債務者概況表
  • 概要(課題・問題点、計画の基本方針、計画期間・改善目標等)
  • 企業集団の状況
  • ビジネスモデル俯瞰図
  • 資金実績表
  • 計数計画・具体的施策
  • 実施計画
  • 計数計画:損益計画
  • 計数計画:キャッシュフロー又は資金計画
  • 計数計画:貸借対照表計画
  • 計数計画:タックスプラン
  • 計数計画:金融機関別借入金返済計画、金融支援計画

※各ページの解説やカスタム方法のご案内は、順次追加していきます。

経営改善計画に盛り込むべき内容

経営改善計画策定支援事業のマニュアル・FAQ(令和5年4月1日改訂版)にて、経営改善計画に盛り込みべき内容に関して、次のような回答が載っています。
サンプル様式と以下の内容を踏まえながら、作成されると良いでしょう。

経営改善計画策定支援事業のマニュアル・FAQより

  • 会社概要表(株主、役員構成、役員等との資金貸借、沿革等)
  • ビジネスモデル俯瞰図(グループ企業等がある場合は企業集団の状況を含む)
    (ローカルベンチマークの「業務フロー・商流」、「4つの視点」、「財務分析」の3シート(グループ企業等がある場合は企業集団の状況を含む)での代用も可)
  • 経営課題の内容と解決に向けた基本方針
  • アクションプラン(各経営課題の解決のための具体的な行動計画)及び伴走支援計画(計画内容に応じた期間(原則3年程度))
  • 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書等の計数計画
  • 資金繰表(実績・計画)
  • 金融支援の依頼内容(条件変更、融資行為等)
  • 資産保全表
  • その他必要とする書類

収益力改善支援に関する実務指針より

支援専門家向けの「収益力改善支援に関する実務指針」では、より具体的な着眼点が示されています。この実務指針については、要約したものが以下のページにありますので、そちらをご覧ください。要約前のものは中小企業庁HPにあります。

ここでは、上記リンク先から、計画策定支援の項目のみを抜粋してご紹介します。

2.3.1. 現状分析

会社基本情報の確認と分析

  • 株主・役員構成、経営者年齢、経営理念の確認・整理
  • 主な項目:経営者年齢、経営理念、経営体制の特徴や課題

財務分析

  • 過去の損益・経営管理指標の分析、変動原因、同業データ比較
  • 資金繰り、返済原資、借入金管理の確認
  • 主要財務指標:営業利益率、営業運転資本回転期間、労働生産性、EBITDA 有利子負債倍率

商流の確認と分析

  • 商品・サービスの流れ、取引先の概要、取引状況、業種特性を基にした売上構成要素の整理
  • 主な項目:取引先構成、部門別収支、回収条件

業務フローの確認と分析

  • 自社の業務フロー、各工程の作業内容の整理
  • 主なポイント:経営者のこだわりや工夫、支援者の視点、業務の可視化

外部環境の確認と分析

  • 業界・市場の動向、外部環境の分析
  • 主な項目:市場動向、競争環境、金融機関取引、関係者等の関係性

内部環境の確認と分析

  • 組織の内部管理体制、従業員の定着状況の分析
  • 主な項目:従業員の定着率、品質・情報管理体制、人材育成・確保、リスク管理
2.3.2. 経営課題の明確化
  • 現状の特色や問題点を基に経営課題を明確化する。
  • 経営者の「ありたい姿」や「将来像」を考慮しながら取り組みが必要。
  • カーボンニュートラルやデジタル化への対応など中長期の経営課題にも注目。
  • 優先順位を整理し、経営者と支援者が情報を共有し課題解決を目指す。
  • 不十分な事例:
    • 飲食業や宿泊業の課題として「コロナ禍の影響」のみ挙げる。
    • 建設業の課題として「資材価格や運送コストの高騰」のみ挙げる。
    • 人材不足やIT導入の課題も重要。
2.3.3. 課題解決策の検討
  • 経営課題への対応として商流や業務フローの見直しを行い、外部環境や事業者の強み・弱みを考慮した解決策を検討。
  • 時間や資源が限られるため、優先順位や資源の配分を考慮しつつ取り組む。
  • 解決策の実行には、担当者の明確化や会議の開催などの体制整備が効果的。
  • 不十分な事例:
    • 飲食業の売上増加策として「魅力的なメニューの開発」のみ挙げる。
    • 卸売業の利益率改善策として「事務所経費の削減・運送の効率化」のみ挙げる。
2.3.4. アクションプランの策定
  • アクションプランは実行時に真価を発揮。
  • 改善策は事業者の担当者が実行。
  • 実行性の高いアクションプランの策定が必要。

【着眼点】

  1. 経営者と担当者が納得する計画を、現場担当者の意見を取り入れて検討。
  2. 実施責任者、取組内容、取組方法、スケジュールを具体的に検討。目標水準の設定やその根拠も必要。
  3. 収益改善の具体的な数値を算出し、目的を明確化。
  4. 計画策定後、組織的な実行とPDCA、モニタリングが重要。

【不十分な事例】
具体的な行動や実行可能性の検討が不足しているケース。

2.3.5. 数値計画の策定
  • アクションプランの実行を基に、将来の事業見通しを数値で示す。
  • 市場の変動要因を考慮。

【着眼点】

  1. 売上高をセグメント別に分析し、変動要因を考慮して計画策定。
  2. 売上高を単価と数量に分解して検討。
  3. 原価・費用項目を過去の実績と変動要因を基に数値化。
  4. 大きな変動がある場合は、根拠を明示。計画策定の際の特別な事情がある場合、以下5,6を最低限考慮。
  5. 損益計画は過去の実績を基に数値化して策定。
  6. 大きな変動がある場合は、その具体的な根拠を明示。

【不十分な事例】
アクションプランに基づいた詳細な数値の検討が必要。

2.3.6. 資金繰りの検討

資金繰りの見通しの精度を向上させ、予期せぬ資金不足を避けるための分析と予想が必要。

  1. 売掛金回収条件・買掛金支払条件の確認。
  2. 月次売上・仕入・外注の見込金額の検討。受注状況や季節性等を考慮。
  3. 税金、社会保険料、借入金返済、設備投資等の支出の確認。
  4. これらの情報を基に月次の資金収支を計算。資金不足の際は対応策を検討。

検討が不十分な事例として、運輸業での資金繰りの問題点を挙げ、季節性や業界特有のリスク(ガソリン価格の変動、回収と支払のギャップ、突発的な支出等)を考慮する必要性を示唆。

2.3.7. 金融支援内容の検討
  • 金融支援を検討する際、経営者は財務状況、経営状況、キャッシュフロー状況、金融支援の理由を理解し、取引金融機関と共有・相談すべき。
  • 経営者と士業等は金融機関との情報共有と理解の重要性を強調。特に返済計画の実現可能性や金融機関の公平性を考慮する。
  • 金融機関は支援の妥当性を判断するため、事業者の利益になる内容や計画の実行可能性を確認。
  • 士業等は「返済猶予」の必要性を検討する際、元金据置を安易に選択せず、部分返済の可能性や返済猶予中の収益力改善、事業の継続性を考慮する必要がある。

経営改善計画書を作成するメリット

第一には、経営改善計画書を作成することにより、自社の事業を今後どうすべきか、どれくらいの利益が必要で、そのためにどうすべきかということが明確になる点です。
第二に、具体的な課題や対策、誰がいつまでに何をするか、といった行動計画が明確になることで、経営改善が進みやすくなる利点があります。
そして第三に、金融機関から融資やリスケといった支援が受けやすくなり、資金繰りの改善が期待できる点が挙げられます。

経営改善計画策定の選択肢

経営改善計画策定支援事業(405事業)の利用

国の補助を受けて、公認会計士や税理士・中小企業診断士等の認定経営革新等支援機関の協力を得ながら、経営改善計画書を作成することができる制度です。補助率2/3、補助額上限300万円と、金額的にも手厚いことから、しっかりと事業の分析を行った上で、今後の方向性や改善策について十分な検討を行いたい、という場合は特に向いているでしょう。

保証協会の専門家派遣事業の利用

訪問回数10回の中で計画をつくるもので、金融支援の合意形成まで行うことができます。
費用は無料ですが、専門家から支援を受けられる時間が少ない分、自社でできる作業は自社で行うようにすれば、クオリティを高めていくことができるでしょう。

中小企業診断士協会の実務補習制度の利用

中小企業診断士の更新要件である実務ポイント獲得のために開催されている実務研修制度(実務補修)の実習受け入れ先となることで、無償で経営改善計画を策定して貰えることもあります。訪問回数は数回程度ですが、指導員を含んだチームで取り組んで貰えるため、回数の割に高いクオリティが期待できます。また、多様な知恵を得られる可能性があることも魅力の1つです。

その他

民間のコンサルティング会社の支援を得る、ご自身で作成される、などが挙げられます。

経営改善計画書策定の基本的な流れ

経営改善計画書策定の基本的な流れは、以下の通りです。
これが原則的な流れではあるものの、自社で作成する場合等、慣れていない場合は特に、まずは計画書を埋めていき、その中で以下の取り組みを行っていくという進め方のほうが、やりやすいかと思います。

  1. 現状分析
  2. 課題の明確化
  3. 対策の検討
  4. 実行計画の策定
  5. 評価と改善

現状分析

まず、自社の経営状況を分析します。売上高や利益、資産・負債の状況、経営環境の変化などを把握します。

課題の明確化

現状分析を行った上で、自社にどのような問題点があるのかを明確にします。売上が伸び悩んでいる、利益が減少している、資金繰りが厳しいなどの問題点が考えられます。対策の検討課題を明確にした上で、その問題を解決するための具体的な対策を検討します。対策は、以下の3つの観点から検討します。

  • 収益性向上策
  • コスト削減策
  • 資金繰り改善策

実行計画の策定

対策を検討した上で、その対策を実行するための具体的な計画を策定します。実行計画には、以下の内容を記載します。

  • 対策の実施期間
  • 担当者
  • 予算
  • 進捗管理の方法

実行と改善

経営改善計画は、作成して終わりではありません。
その内容を実行するのは勿論、定期的に目を通し、実現できるよう必要に応じて細分化する等行う必要があります。

まとめ

経営改善計画書は、経営の改善を図るための重要なツールです。資金繰りが厳しい中小企業経営者であれば、経営改善計画書を作成することで、金融機関から融資を受けやすくなったり、取引先との信頼関係を築きやすくなったりするメリットがあります。

本記事で紹介した内容を参考に、経営改善計画書の作成に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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