経営改善計画

経営改善計画には何を書く?要素と着眼点

中小企業庁が「これに沿って計画策定に取り組んで」と支援者に向けて示している、「収益力改善支援に関する実務指針」というものがあります。
盛り込むべき要素や着眼点が書かれていて、一定のクオリティを保つ上で有用です。ボリュームがあるので、ここではその要約をご紹介します(伴走支援の章以外)。

「収益力改善支援に関する実務指針」の要約(1. はじめに)

1.1. 本実務指針の狙い

  • 中小企業は、新型コロナウィルス感染症や原材料価格の上昇などの外部環境の変化により経営が困難になっている。
  • 収益力改善と事業の再生が必要で、早期の取り組みが推奨されている。
  • ガバナンス体制の整備も収益力改善の取組みと並行して重要視される。

1.2. 本実務指針の運用方針

  • この実務指針は経営者と支援者の対話と協力を通じて収益力改善やガバナンス体制の整備を推進するものである。
  • 早期の適切な支援と事業者のガバナンス体制の整備が本実務指針の主要な目的である。
  • 中小企業庁の「経営改善計画策定支援」と「早期経営改善計画策定支援」は、この実務指針に基づく取り組みとして推進される。

2. 収益力改善支援の実務と着眼点

2.1. 支援ニーズの掘り起こし

2.1.1. 経営者自らの気づきの醸成
  • 経営者は日常の経営判断を行いつつ、環境の変化や第三者の視点を取り入れる必要がある。
  • 経営が危機的状況になるまでの対応や支援の必要性を感じないケースがある。
  • 収益力改善には経営者が早い段階での対応や適切な支援者への相談が必要。
  • 「経営者のための経営状況自己チェックリスト」を用いて、経営者と支援者との対話を促進する。
2.1.2. 支援者による気づきの提供
  • 収益力改善の早期取り組みには、顧問税理士や金融機関などの支援者が重要。
  • 支援者は経営の変化をキャッチし、経営者に改善の必要性を伝える役割がある。
  • 「支援者による経営状況チェックリスト」を使用して、経営者との対話を助ける。
  • 事業者の経営状況を理解し、さまざまな事業活用を促進する。

2.2. 支援者による相談対応

2.2.1. 経営者との対話と傾聴
  • 支援者は収益力改善を目指し、信頼関係の構築のため対話と傾聴が重要。
  • 経営者との対話は、現地訪問やオンライン通話など、状況に応じて行うべき。
  • 経営者の話を傾聴し、問題解決の取組みを共に考えることで信頼感を得る。
  • 経営デザインシートを活用して、将来のビジョンを明確にすると有効。
  • 支援者は、経営者が経営環境の変化に適応する力を持つよう支援すべき。
2.2.2. 事業の理解
  • 支援者と経営者は事業の現状を深く理解し共有すべき。
  • 4つの視点(経営者、事業、環境・関係者、内部管理体制)を基にビジネスモデル俯瞰図を作成。
  • 支援者は各業界の基礎的知識と用語を理解しておくことが必要。
  • 中小企業白書や地域経済報告などの情報を活用して、事業理解を深めることが有用。
2.2.3. 他の支援者等との連携検討
  • 収益力改善を目指す上で、様々な連携先を考慮する必要がある。
  • 早い段階での情報共有や意見交換が円滑な取組みに繋がる。
  • よろず支援拠点や中小企業団体中央会など、多様な支援機関への相談が効果的。
  • 高度・多様な課題に対しては、「よろず支援拠点」を活用し、専門家からの助言を受けることが重要。
  • 支援者と中小企業支援機関は、情報共有や連携を密に行うことが望ましい。

2.3. 計画策定支援

2.3.1. 現状分析
  • 計画策定時には、会社情報や財務、業務フロー等(以下①~⑥)を網羅的に分析。
  • 表面的な情報だけでなく背景の理解が必要。
  • 経営者の見落としは外部視点での強みや課題として捉える可能性。
  • ポスコロ事業では、小規模・経験乏しい事業者が多いため特性を考慮。
  • ガバナンス体制の支援では、財務基盤強化がキーポイント。
  • 現状分析は上記観点を基に実施。

会社基本情報の確認と分析

  • 株主・役員構成、経営者年齢、経営理念の確認・整理
  • 主な項目:経営者年齢、経営理念、経営体制の特徴や課題

財務分析

  • 過去の損益・経営管理指標の分析、変動原因、同業データ比較
  • 資金繰り、返済原資、借入金管理の確認
  • 主要財務指標:営業利益率、営業運転資本回転期間、労働生産性、EBITDA 有利子負債倍率

商流の確認と分析

  • 商品・サービスの流れ、取引先の概要、取引状況、業種特性を基にした売上構成要素の整理
  • 主な項目:取引先構成、部門別収支、回収条件

業務フローの確認と分析

  • 自社の業務フロー、各工程の作業内容の整理
  • 主なポイント:経営者のこだわりや工夫、支援者の視点、業務の可視化

外部環境の確認と分析

  • 業界・市場の動向、外部環境の分析
  • 主な項目:市場動向、競争環境、金融機関取引、関係者等の関係性

内部環境の確認と分析

  • 組織の内部管理体制、従業員の定着状況の分析
  • 主な項目:従業員の定着率、品質・情報管理体制、人材育成・確保、リスク管理
2.3.2. 経営課題の明確化
  • 現状の特色や問題点を基に経営課題を明確化する。
  • 経営者の「ありたい姿」や「将来像」を考慮しながら取り組みが必要。
  • カーボンニュートラルやデジタル化への対応など中長期の経営課題にも注目。
  • 優先順位を整理し、経営者と支援者が情報を共有し課題解決を目指す。
  • 不十分な事例:
    • 飲食業や宿泊業の課題として「コロナ禍の影響」のみ挙げる。
    • 建設業の課題として「資材価格や運送コストの高騰」のみ挙げる。
    • 人材不足やIT導入の課題も重要。
2.3.3. 課題解決策の検討
  • 経営課題への対応として商流や業務フローの見直しを行い、外部環境や事業者の強み・弱みを考慮した解決策を検討。
  • 時間や資源が限られるため、優先順位や資源の配分を考慮しつつ取り組む。
  • 解決策の実行には、担当者の明確化や会議の開催などの体制整備が効果的。
  • 不十分な事例:
    • 飲食業の売上増加策として「魅力的なメニューの開発」のみ挙げる。
    • 卸売業の利益率改善策として「事務所経費の削減・運送の効率化」のみ挙げる。
2.3.4. アクションプランの策定
  • アクションプランは実行時に真価を発揮。
  • 改善策は事業者の担当者が実行。
  • 実行性の高いアクションプランの策定が必要。

【着眼点】

  1. 経営者と担当者が納得する計画を、現場担当者の意見を取り入れて検討。
  2. 実施責任者、取組内容、取組方法、スケジュールを具体的に検討。目標水準の設定やその根拠も必要。
  3. 収益改善の具体的な数値を算出し、目的を明確化。
  4. 計画策定後、組織的な実行とPDCA、モニタリングが重要。

【不十分な事例】
具体的な行動や実行可能性の検討が不足しているケース。

2.3.5. 数値計画の策定
  • アクションプランの実行を基に、将来の事業見通しを数値で示す。
  • 市場の変動要因を考慮。

【着眼点】

  1. 売上高をセグメント別に分析し、変動要因を考慮して計画策定。
  2. 売上高を単価と数量に分解して検討。
  3. 原価・費用項目を過去の実績と変動要因を基に数値化。
  4. 大きな変動がある場合は、根拠を明示。計画策定の際の特別な事情がある場合、以下5,6を最低限考慮。
  5. 損益計画は過去の実績を基に数値化して策定。
  6. 大きな変動がある場合は、その具体的な根拠を明示。

【不十分な事例】
アクションプランに基づいた詳細な数値の検討が必要。

2.3.6. 資金繰りの検討

資金繰りの見通しの精度を向上させ、予期せぬ資金不足を避けるための分析と予想が必要。

  1. 売掛金回収条件・買掛金支払条件の確認。
  2. 月次売上・仕入・外注の見込金額の検討。受注状況や季節性等を考慮。
  3. 税金、社会保険料、借入金返済、設備投資等の支出の確認。
  4. これらの情報を基に月次の資金収支を計算。資金不足の際は対応策を検討。

検討が不十分な事例として、運輸業での資金繰りの問題点を挙げ、季節性や業界特有のリスク(ガソリン価格の変動、回収と支払のギャップ、突発的な支出等)を考慮する必要性を示唆。

2.3.7. 金融支援内容の検討
  • 金融支援を検討する際、経営者は財務状況、経営状況、キャッシュフロー状況、金融支援の理由を理解し、取引金融機関と共有・相談すべき。
  • 経営者と士業等は金融機関との情報共有と理解の重要性を強調。特に返済計画の実現可能性や金融機関の公平性を考慮する。
  • 金融機関は支援の妥当性を判断するため、事業者の利益になる内容や計画の実行可能性を確認。
  • 士業等は「返済猶予」の必要性を検討する際、元金据置を安易に選択せず、部分返済の可能性や返済猶予中の収益力改善、事業の継続性を考慮する必要がある。

3. ガバナンス体制の整備支援の実務と着眼点

3.1. 支援に当たっての考え方

  • 事業者のガバナンス体制整備の目的: 持続的な成長・企業価値の向上。
  • 金融機関等との良好な信頼関係の構築が重要。
  • 信頼関係の構築には、取引先への情報開示と経営の透明性が必要。
  • 情報開示の内容は、適時性・適切性・正確性が求められる。
  • 経営者は、資産負債の状況や事業計画などを信頼性高く開示すべき。
  • 事業者の資産と経営者の資産・家計は適切に分別・管理することが望ましい。
  • 内部管理体制の構築と収益力の改善も必要。
  • PDCAサイクルを回して、経営環境の変化に対応することが肝要。

3.2. ガバナンス体制の整備に係る計画策定支援

3.2.1. 現状把握
  • 支援者は、事業者から経営の透明性や資産の管理状況などについての説明を受ける。
  • 経営者の「ありたい姿」や「将来像」を確認し、組織体制や財務基盤の強化を目指す。

(1)経営の透明性確保

  • 情報開示と経営者とのコミュニケーションの確認。
    • 決算書、各勘定明細、税務関係書類、試算表、資金繰り表の確認。
    • 主なチェックポイント:
      • 決算書:直近3年分の有無。
      • 税務関係書類:税務署受領印の確認。
      • 試算表:提供体制の確認。
  • 情報内容の正確性の確認。
    • 各勘定明細の粒度、直近3年分の比較などを見る。

(2)事業者と経営者の資産等の分別管理

  • 事業者と経営者間の関係の明確な区分・分離、資金のやり取りの確認。
  • 主なチェックポイント:
    • 資産所有:経営者が保有する資産への適正な賃料の確認。
    • 資金のやり取り:不適切な資金流用や経営者からの借入金の確認。役員報酬の方針の確認。

(3)内部管理体制の構築

  • ローカルベンチマークを基に、以下の項目の確認。
    • 組織管理体制:外部の意見の取り入れ。
    • 品質・情報管理体制:リスク対応。
    • 事業・経営計画の有無:目標の進捗管理、具体的な活動の決定。
    • 従業員との共有状況:経営目標の浸透度。
    • 社内会議の実施状況:次の改善や改革につながっているか。
    • 事業継続計画(BCP)対応状況:自然災害等の対策確認。
3.2.2. 課題明確化
  • 現状分析での課題点を原因と対応で検討し、ガバナンス体制の整備に向けた課題を特定。
  • 経営者の納得と自らの取組が重要。
  • 経営者の「ありたい姿」や「将来像」を確認し、動機付けが大切。
  • 経営者と支援者の情報共有とガバナンス体制の整備の目的明確化が必要。
  • 事例: 収益力だけでなく、借入金の適切性や資金使途も確認する必要がある。
3.2.3. 対応策の検討と事業者へのアドバイス
  • 効果的かつ実行性の高い解決策の検討が求められる。
  • 経営者との意見交換を通じてガバナンス体制の整備状況を把握。

【着眼点】

  1. 課題に対する解決策の検討
  2. 複数の課題に対して優先順位や実施スケジュールの整理
  3. 対応策の具体化は経営者との協議を通じて策定
  4. 計画実施中の意見交換や達成状況の確認。

【事例】
資金の使途を確認し、資金流出の原因を把握して対応する必要がある。

まとめ

2023年4月以降の申請で変わる点としては、ガバナンス強化について触れること、アクションプランと数値計画の連動の厳格化、といったあたりでしょうか。経営状況チェックリスト等は支払申請時のチェックリストは活用するのに越した事はないですが、提出義務はありません。
ロカベンや経営デザインシートについても同様ですが、「活用した方が望ましい」とあるので、使ったほうが無難かもしれませんね。

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